脳は「耕し続けることができる」という希望
序:絡まった配線と、心の「回路」の書き換え方
こんにちは、大願寺の住職、恭俊(きょうしゅん)です。
最近の私は、お寺のIT環境を整えようと、本堂の裏で不慣れな配線やシステム設定に四苦八苦する毎日を過ごしています。絡まり合うケーブルを前に「これさえ繋がれば……」とため息をつくこともありますが、ふと、これは私自身の脳の回路を繋ぎ直す作業なのかもしれない、と思い直しています。
かつて私が29kgの減量に成功した時もそうでした。最初は慣れない運動や食事制限に戸惑いましたが、少しずつ「習慣」という回路を書き換えていくことで、体も心も劇的に変わっていきました。その時に感じた「もどかしさ」こそが、自分を新しく作り変えていく尊いプロセスなのですね。
今日は、2025年11月に発表された最新の脳科学の知見を、お寺の風景に重ねてお話ししましょう。
説:脳は「耕し続けることができる」という希望
かつて、大人の脳は「一度形が決まれば変わらないもの」と考えられていました。しかし、最新の研究(Brain Sciences誌)では、音楽という刺激が、私たちの脳を柔軟に作り変える強力な「縁(えん)」になることが示されています。
これを科学では「神経可塑性(しんけいかそせい)」と呼びますが、お寺の言葉で言えば、まさに「境内の土を耕すこと」に似ています。
冬の間にカチカチに固まった地面も、春の雨を受け、丁寧に鍬(くわ)を入れれば、新しい芽が吹く柔らかな土壌に変わります。音楽のリズムや調べは、私たちの脳という大地を優しく解きほぐし、整えてくれる「恵みの雨」のような存在なのです。何歳からでも、脳は耕し、新しく芽吹かせることができる。これほど心強いことはありません。
理:「良い音」を選ぶことは、自分を慈しむこと
研究では、単に音を聴くだけでなく、その「質」や「向き合い方」が脳の健康に重要だと説かれています。
私自身、29kgのダイエットに励んでいた時、ただ闇雲に体を動かすのではなく「自分の体の声(心拍や筋肉の張り)」を丁寧に聴くことで、無理なく変化を受け入れることができました。実はこれ、オーディオのセッティングにも通じるものがあります。
現在、法話をよりクリアにお届けするためにマイクやスピーカーの調整をしていますが、余計なノイズを削り、澄んだ響きを追求する作業は、まさに「調心(ちょうしん)」の修行そのものです。
ノイズ(心の雑念)を静め、本来の響きを取り戻すプロセスは、科学的にも脳のネットワークを健やかに繋ぎ直す助けになるとされています。良い音に耳を澄ませる時間は、自分自身を大切に扱う「慈悲の時間」でもあるのです。
行:今日からできる「脳の養生」
大願寺の本堂でお経を唱える時、声が揃い、脳波が大きなリズムの中に同調していくような一体感があります。これは科学的にも「脳の適応力を高める」素晴らしい習慣です。日常でも、こんな「脳の土壌改良」を試してみませんか?
1. 「呼吸」を音の波に乗せる
ゆったりとした曲(心拍数に近い、落ち着いたテンポ)を聴きながら、そのリズムに合わせて深く呼吸をしてみましょう。脳が「今は安心してもいいんだよ」という信号を受け取り、緊張という強張った土が解けていきます。
2. 「消え際の余韻」を追いかける
家事や仕事の合間に5分だけ、スマートフォンの通知を切り、音の重なりや、鐘の音のような「消え際の余韻」を最後まで追いかってみてください。この「聴く」ことに専念するひとときが、脳のネットワークを美しく繋ぎ直すスイッチになります。
結:あなたの中の「響き」を大切に
音楽を愛でることは、あなたという尊い存在を慈しむことです。
IT構築に頭を抱え、配線に埋もれている私にとって、スピーカーから流れる静かなピアノの音は、散らかった思考を整理してくれる最高のアドバイザーです。
皆様の毎日にも、心を潤す素敵な「響き」が溢れますように。
合掌
【今回の智慧】
- 縁起(えんぎ):すべての物事は相互に関係し合って成り立っているということ。音楽という刺激が「縁(きっかけ)」となり、脳の構造が変わっていくことも、この世界の美しい繋がりを示しています。
- 調心(ちょうしん):姿勢と呼吸を整えた先に、心を穏やかに整えること。お寺で音に耳を澄ませるように、日常でも「聴く」ことを通じて、自分の中心を整えることができます。
出典・参考文献
Noda, Y., & Noda, T. (2025). The Influence of Music on Mental Health Through Neuroplasticity: Mechanisms, Clinical Implications, and Contextual Perspectives. Brain Sciences, 15, 1248.